この投稿は、ゼミのでの提出課題の原稿・構成を元に、一部加筆・修正したものです。
論理的な文章とは何か?長い文章を書くときのコツは?それを論文やレポートにどう生かすか?
今回は、酒井聡樹(2007) 「これからレポート・卒論を書く若者のために」(共立出版)の書評に取り組みました。
1.ロジカルな論文構成を目指す
1.1. 押さえておくべき3つの条件
酒井聡樹(2007)「これからレポート・卒論を書く若者のために」では、その第一章の部分で、レポートや卒論を執筆する上で重要な、3つのポイントを挙げています。それぞれ順番に考察し、私なりの解釈を述べてゆきたいと思います。
1.1.1 学術的であるか
たとえそれが社会的な問題や大衆に広く受けられそうな問題であったとしても、動機付けや問題提起がなされていない限り、学術的な論文であるとは言いがたいでしょう。動機付けというのは、個人の熱意や興味に裏打ちされたものではなく、客観的に事実をしっかりと見据えた上で、問題や課題を見極めるためにその論 文を書くに足る理由を明示することです。ここを疎かにすると、「学術論文」から、「読書感想文」や「大学生の自由研究」まで、研究そのものの品位を 落とすことに繋がりかねません。基本的なことではありますが、問題提起の際には頭に入れておく必要があると言えます。
1.1.2 興味を持って取り組めるか
当然、執筆者のモチベーションにも影響を与えるポイントであることは間違いありません。しかしながら、研究というものは、自分本位で進めるものでは決してありません。そこに自分の論文を読む読者を想定しなくてはなりません。自分が興味を持てない問題は、その提起した問題に興味が無い一般大衆が論文を読んで も、面白くないばかりか、おそらく見向きもされないでしょう。そういった読者を惹きつける小ネタとは別次元の話です。もちろん、自分の興味≠相手の興味ではあるものの、相手の興味の前提条件として、自分の興味は存在しなくてはならないと言えるでしょう。
1.1.3 解答できる見通しが立つこか
より現実的な問題として、学術論文の最後には、必ずその成果を報告(結論付け)しなくてはなりません。課題図書の中でも述べられていますが、単なるデータ の羅列をまとめたかのように見せかけたものや、現実離れした結論(e.g. 日本人の身体能力向上のために、政府予算100億をかけた牛タン定食の全国的な即時無料化が求められている、など)は求められていません。その問題に対し て、完全な、あるいは一部、さらには最も基本的な論理や疑問を提示するだけでも、筋さえ通っていれば良いのです。ただし、考えるコツとしては、身近な視点 を大事にすることではないでしょうか。日常やふとした瞬間に疑問に思ったこと、矛盾に気付いたこと、おかしいと思ったこと、それらを糸口に見通しを立てれ ば、あまりにも現実と乖離したような結論にたどり着くことは、ほぼ皆無ではないでしょうか。
1.2 テーマ設定のコツ
多くの卒論に臨む若者(私も!)を苦しませているのが、このテーマ設定だと言えます。最初の難関とも言うべき、この重要な事項を乗り切るために、必要な心構えとはどういったことなのでしょうか。
1.2.1 「ひっかかり」を探せ
テーマ設定のために必要なのは、ある種の「ひっかかり」ではないでしょうか。1.1.3でも述べましたが、日常的な出来事の中で、あるいは興味が沸いた文献を読んでいて、疑問に思うことや、違った解釈が出来ることに気付いたら、もうそれはテーマ設定への道しるべにたどり着いたことになります。しかし、闇雲 に興味をそそられるだけで、文献などに飛びついていては、まず時間が足りません。さらには、大量の情報に対する頭の処理が追いつかないばかりか、手段と目 的がいつしか逆になっていた、そんな悲劇もあるかも知れません。自分の今現在持っている知識と、興味が持てそうな分野を関連させていくこと、バランスを欠 いた興味や関心は削ぎ落としていくことが大事なのではないでしょうか。
1.2.2 思考の反芻を大切に
ある文献を読み、内容を咀嚼していくことは、あたかも自分の頭が良くなったかのような錯覚を起こさせるときがあります。学術論文作成の時だけに限ったこと ではないのですが、一つの論文や本から受け取れる情報は大変限られています。もちろん、意味や問題に関連する解法を咀嚼して、自分の知識として活用するこ とは大いに推奨されるべきです。しかし、それらの知識が本当の意味で生きてくるのは、他の知識と関連付けられた瞬間ではないでしょうか。レポートはもちろ ん卒業論文の作成は、あらゆる学術的知識や実験データをリンクさせていく作業でもあるのです。思考の反芻とは、咀嚼し、また他の知識との関連付けも視野に 入れた再検討を行い、さらに思考を深めていく一連のプロセスのことを指します。
1.2.3 情報を整理するために
情報の整理のキーワードには、情報の視覚化および常設化が必要ではないか、と読み取ることができました。視覚化とは、読んで字のごとく、メモやコンピュー ターソフトウェアなどを用いて、混沌とした情報や知識の海から、ある一定の秩序立った体系をを自らの手で描き出すことにあります。また、ブレインストーミ ングやKJ方、カードを用いた連想方など、さまざまな手段を駆使し、記憶を常に最新に保ち、手の届く範囲にあらゆる情報を置いておくこと=「手がかりの常設化」も求め られます。
1.3 構想を練るための材料
テーマがおおまかに絞れてきたら、その学術論文の縮図ともいえる構想を練る段階に入ります。論文は感想文や個人の覚書とは異なり、「複雑」な文章体系のもとに成り立っている、「簡潔」な文書でなくてはなりません。構想とは、あるひとつの遊園地や行楽地を案内するための、薄いパンフレットとでも言うべきもので しょう。そこに必要な要素を検証してゆきます。
1.3.1 結論の妥当性
結論は、問題提起と軸を共にし、あくまで論理的欠陥を排除しなくてはなりません。自明のことですが、Q-Aの関係が崩れてしまえば、その時点で論理が破綻 してしまいます。著者の酒井さんは、逆向きから考えること、つまり結論から必要なデータを見越すことが大事であると著書の中で述べています。 Backward Designについて前回の課題では触れましたが、より理論的かつ柔軟なBackward Designが必要であると言えるかもしれません。また、両者の違いについても、考察の余地があると思われます。
※Backward Designについては、私の指導教官の柳瀬先生がブログ「英語教育の哲学的探求」にて、
その問題点と今後の展望を指摘してくださっています。ぜひお読み下さい。
『Backward Designはなぜ失敗しうるのか』
1.3.2 骨格の構成
骨格には「問題提起」のための「取り組む問題」「問題意識」、「解答への道筋」を立てるための「着眼点」『データ・実験」、そして「問題解決」のための 「結論」の3点に大別することが出来ます。いずれにせよ、高校の小論文の時間で学習した「序論」「本論(論拠となるサポートセンテンス)」「結論」の構成 との類似性を見出すことができます。加えて、学術論文では、読者に伝えたい研究の結果を、すっきりとまとまった形で網羅するためには、構造化だけでなく、 そのレポートによって何が課題として意識されているのか、という時点から明確に示しておく必要があります。
1.3.3 見えてきた課題
骨格を形成するにあたり、そのプロセスのどこかで行き詰まってしまった場合、研究対象となるものの、学術的な意義の低さに原因を求める場合と、研究者自身 の学術的な知識の不足に原因を求める場合とがあります。前者の場合、指導教員や学友との対話、あるいは個人での思考の反駁によってその意義の低さに気がつ くことがあるかも知れませんが、後者の場合はなかなか自身で気づくことができない場合が多いように思えます。ですから、骨格の構築の段階で躓いてしまうな らば、自身の知識体系を、もう一度見直すよう警告をしてくれているのではないでしょうか。ある意味では執筆前の最後の安全装置となりうるようにも思います。
2. わかりやすい文章構成を目指すために
2.1 「伝える」ことは容易くない
この部分に関しては、前回の課題内容と被る部分が多いと思いました。論文は読者の視点に立った上で、内容を進めていかなくてはなりません。リーダー・フレンドリーであるということは、
この部分に関しては、前回の課題内容と被る部分が多いと思いました。論文は読者の視点に立った上で、内容を進めていかなくてはなりません。リーダー・フレンドリーであるということは、
・読者と話者の2つの視点を常に持ち、
・「話者は何を知っているのだろう」
・「どのような解説を加えれば、読者は内容をこち らの思惑どおり理解してくれるだろう」
・「整理はしやすいだろうか」
などといった観点から俯瞰してみることが、重要だと言えます。
2.2 文の繋がりや修飾語を意識せよ
第3部では、主に日本語の修飾技術や文のつながり(coherence)に注目した解説がなされています。これほどまで日本語の修飾や用法に着目した解説 を見たのは初めてだったので、非常に新鮮な気持ちで読むことができました。修飾語の順番、文章の優先度に拠った文脈整理、無駄な情報の削減や複数の文脈に 跨る紛らわしい表現の抑制など、自分の文章にも所々当てはまるような指摘が多くなされていました。読み込めば読み込むほど新しい発見がある部分でした。
2.3 圧縮ファイルとの共通性
文章を簡略化することは、ファイルを圧縮することと似ているようにも思えます(ちょっと強引?)。Zip形式のファイルなどは、以下のような方式でサイズを圧縮しています。
「AAAAAMMMMMDDDDGGGG」→「A5M5D4G4」
1文字1キロバイトと仮に考えると、18キロバイトが8キロバイトまで圧縮されています。必要な情報はしっかりと携えたまま、効率のよい記述方法で容量を少なくしています。もちろん、そのまま比較するのには無理があるかもしれませんが、「(説得に足る)最低限の情報はしっかり、かつわかりやすく。」この原則は、理系的な観点から見てみるとわかりやすいのかも知れません。(上記の例は、圧縮のプロセスを簡略化したものです。概念そのものが間違っている可能性があれば、ご指摘願います。)
次回は、本多勝一(1982)『日本語の作文技術』(朝日文庫)を取り扱います。
これもまた、是非一読するに値する有益な本だと言えます。
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