私が所属する2011年度柳瀬ゼミでは、卒業論文作成のための活動として、文献や論文を読み解き、それらのまとめ(提出課題)を行っています。
この投稿は、ゼミのでの提出課題の原稿・構成を元に、一部加筆・修正したものです。
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1.大学入試を捉えなおす必要性
1.1 入試を気分で捉えるな
「入試対策」という言葉を聞くと、文法や単語、長文読解やリスニングなどの指導を思い浮かべるだろう。もちろん、それらは大学入試に臨む生徒にとって重要な指導内容であることには間違いない。しかし、深く考えること無しにやみくもに指導していては、変わりつつある英語教育の流れに逆行するような受験対策に終始してしまいかねないのではないだろうか。「入試の対策は難しい」などといった気分的なものに原動力を求めた入試対策ではなく、明確なデータに基づいた実践的な大学入試対策を探って行く必要がある。
1.2 大学入試「英語」不要論
また、筆者の金谷氏は、冒頭に大学入試の英語科廃止論について触れている。ここでは、仮に入試全般において英語科の試験が廃止されたとして、実際の現場ではどういったことを指導したいか、ということをアンケート調査している。面白いことに、ほとんどの教師は明確なビジョンを持てないでいることが分かった。これも、日々の実践の中で教師が、得体の知れない「大学入試」に対する、ゴールの見えない指導に苦しんでいることを暗に示し、気分(恐怖心)に左右されている証拠なのではないだろうか。
2.文法からの観点
2.1 思い込みと現実のギャップ
まず、著者らは、主に教科書で扱われている文法項目に焦点を当て、大学入試ではどういった文法事項が問われやすいのか調査している。調査結果は、比較的簡単な文法事項(下掲)が頻出し、多くの教師(それも進学校のベテラン教師であればあるほど)が思っている、「大学入試で頻出する文法事項」と大きく違っていたのだ。
・大学入試で頻出する文法事項(頻出上位5位まで)
頻度 | 構文 |
1 | it is … (for/of) to ~ <it: 形式主語、[目的語]> |
2 | if + S + V (過去/過去完了), S’ would … |
3 | it is … that [how/if/etc..] … <it: 形式主語、[目的語]> |
4 | so … that ~ |
5 | it is … that [who/which] … <強調> |
・アンケート結果(有名私立進学校 英語科教師対象)
「良く問われる構文」と回答 | 頻出ランキングでの順位 |
no more … than ~ | 37位 |
all the 比較級 for ~ | 41位 |
might as well … as ~ | 62位 |
「あまり問われない構文」と回答 | 頻出ランキングでの順位 |
so … that ~ | 4位 |
it is … (for/of) to ~ | 2位 |
in order to ~ | 9位 |
2.2 暗記から活用へ
また、著者らは、センター試験や大学入試の問題で問われている文法事項を調査し、データ化している。その際、筆者らは文法知識そのものが問われる問題をTargeted question、文法知識を知らないと解答できないような問題をUntargeted questionと定義した。そのデータの内、センター試験、国立大学(東京大、京都大、一橋大、東工大、東北大の5校)、早稲田大、慶応大の入試問題のTargeted questionは減少傾向にある一方、Untargeted questionは増加傾向にあるという結果になった。しかし、1.2でも示したように、そのUntargeted questionに分類された問題の大部分は、基本的な構文を中心としたものである。入試の難易度が下がってきていないことを加味すると、今回対象となった大学入試問題は、一昔前までは直積的な文法知識が役立つことが多かったが、最近の傾向として、長文問題や自由英作問題の増加に伴い、それらをいかに活用するかといった点に焦点が置かれてきているようであると言える。授業の中での英文法の教え方を変えていく必要性が、はっきりと示されているのではないだろうか。
3.語彙からの観点
3.1 実は高い「カバー率」
次に、著者らは中学校の検定教科書7冊と、高校の英語科(Genius 英Ⅰ,Ⅱ,Reading,Writing,Oral Communication Ⅰ)で使われている教科書で扱われている語彙が、入試問題で使用されている英単語をどれほど網羅しているのかについて調査した。その結果、中・高等学校合わせて7019語(異なり語の総数を使用)の単語は、大学入試問題で使用された単語に対して、95.6%のカバー率を示した。もちろん、全ての大学・学部の入試問題を使用したわけではないものの、これは非常に高い数値と言える。
3.2 単語力より推測力※
3.1で、中高等学校で扱う語彙は、入試において高いカバー率を示したことを示した。しかし、私見では、教科書だけでほとんどの単語をカバー出来るのだから、副教材や英単語集に頼ることは不必要であるとは思わない。例えば、意味が分からない英単語に出くわした時、我々はまず周囲の知っている単語や文脈から、その意味を推測しようとする。そこで重要になってくるのは、その単語が持つイメージや、知っている単語から想起される類義語などである。周囲の知っている単語が多ければ多いほど、読解の手助けになり、そこから想起されるイメージや類義語も、多くの単語を知っていればいるほど、豊かなものになる。しかし、教科書で英単語を集中的に取り扱うことは、時間的な制約もありなかなか難しい。そこを埋め合わせるために、課外学習や自宅学習などで副教材を利用することは、効果的な学習のひとつではないだろうか。そこで注意すべきなのは、単語を覚えることは、単なる暗記競争なのではなく、読解や作文の際に大変役立つことを意識させることであると言える。また、日々の単語テストのあり方なども、再考する必要があるように思える。
4.文量からの観点
4.1 速読が求められる実態
最後に、著者らが取り組んだのは、大学入試英語の文量比較である。センターと各大学の入試問題の英文量をwpm(word per minuteの略で、一分間にいくつの単語を読む必要があるか)という単位に換算して調査した。国立大学は東京大の277wpm(2007年入試問題)を筆頭に、一部例外はあるものの、高校生の平均値である75wpmを超え、速読の技術が求められていることが分かった。私立大学も早稲田大、慶応大を筆頭に、ほぼ平均値以上の速読が必要であることが分かった。また、最も受験者が多いセンター試験でも、2002年から2007年度の間で120~150wpmの中に留まっており、やはり「早く読む」という訓練は大学入試に不可欠であるということが分かる。
4.2 平均から実用レベルへの壁
しかし、先述したように、高校生の平均wpmは75wpmという水準に留まっている。教科書のみを活用して、平均wpmの数値を伸ばすための十分な対策が取られているのだろうか。高校の英語Ⅰ、Ⅱの教科書で扱う総文量の18,794語を、授業の半分を用いて読解に充てたとすると、一回の授業あたり、英語Ⅰでは3.05wpm、英語Ⅱでは3.08wpmというスピードでしか授業を進めていない計算になると、筆者は指摘する。中学校の英語教科書ともなると、0.67wpmになり、一分間に一語以下という結果が出ている。もちろん、授業内容とそれに充てられる時間は、単純に割り切れるものではないが、教科書内での英文量対時間のバランスは、現行の入試問題の傾向に則っているとは、言い難い。
4.3 授業の工夫と基礎的な英語力
では、教科書のみで対策を講ずるのは難しいことであるのだろうか。筆者は、多く出回っている速読用の副教材を参考にして、教科書を「課」単位で使用することを提案している。ある課をレッスンごとにぶつ切りで教えるのではなく、まとめた長文問題として提示し、問題のバリエーションを変えることによって速読や長文対策にしてしまうのである。教科書は、大抵の生徒にとって比較的とっつきやすいテーマが選ばれており、また、2.1や3.1で述べたように、教科書で扱われている語彙や文法は、他の副教材に頼らざるとも、大学入試対策に有効でもある事から、このような上手い活用をすることで、十分に速読の訓練に使える教材に化けるのである。
もちろん、読むスピードのみに焦点を置いてしまうと、内容理解を伴わない速読の技術のみが強化されてしまう危険性も著者は指摘している。速読は、基礎的な単語や文法理解の能力の上に、初めて成り立つ能力であるということも、心得ておく必要がある。
5.教科書だけで入試は突破できるか?
5.1 現状から
結論から言えば、「突破できる」であろう。教科書は、私が思っていた以上に、その理解を深めることと、内容の活用を行うことさえすれば、大変役に立つものであることを実感できた。しかし、現状に伴わない教科書の文量や、大学入試への理解が不十分なままに入試英語の対策を行っている、といった事実が、提示されたデータから垣間見えたようにも思える。私個人の意見としては、3.2でも触れたように、教科書の内容を中心にしつつも、副教材を使用することによって指導が効果的に行える分野に関しては、副教材の活用も視野に入れても良いのではないかとも考える。
5.2 実体験から
実体験として、私は高校1年の後半から、教科書中心から、ほぼ副教材(単語集・速読用教材・Reading/Writing用教材)中心の授業を受けていた。もし、それらを教科書使用のみに一元化して、その上、他のどんな副教材よりも大学入試対策に役立つ授業を行えるとしたら、素晴らしいことではないかと思う。無駄な副教材などを全ての生徒に買い与える必要もなくなることから、財政面でもメリットがあると言えよう。しかし、未だに多くの先生が(少なくとも私の高校ではそうであったように思える)大学入試に関して間違った情報を持ち、必ずしも理にかなっていない指導を行っている以上、それらを改善するには多大な労力が必要である。また、教科書のみで教えるためには、教材を使いやすいように工夫する力や、それらを用いた新しい教え方を創造する力なども試されることだろう。
何はともあれ、大学入試を「得体の知れない大きな目標」から、「教科書のみで突破できる目標」へとイメージチェンジするためには、まずは入試そのものの正体を知ることが大事だ。時間の限られている先生方にこそ、この本を是非読んでいただきたいと思う。